創業ストーリー(Founding Story)


 創業ストーリー

■ 後継・廃業・起業の原体験で私たちにしかできない提案の追求を

2012年1月に創業し、10年目を迎える株式会社U-NEXUS。
創業してほどなくFileMaker社(現Claris)、Google社、Apple社といった名だたる企業のビジネスパートナーとなり、また、新しいコンセプトを次々に打ち出し、業界から注目を浴びる存在となりました。
現在は、システム開発に止まることなく、社長を支えるIT人材の育成、企業変革(組織やビジネスモデル)や新規事業のコンサルティングなども手がけ、活躍の場を広げています。
しかし、この10年間にはさまざまな歩みがありました。
共同創業者である代表の上野敏良と専務の横田志幸の創業ストーリーをお届けします。



■ 原点だった家業の印刷会社からIT業界へ

<上野>
私は、家業である印刷会社の2代目社長の親父の次男坊としてこの世に生を受けました。
幼少期より両親から「お兄ちゃんが会社を継ぐから、あなたは自分で好きなことを見つけなさい」と言われて育ちました(笑)
しかし、後継予定だった長男と母親が立て続けに病気になり、兄については闘病生活を余儀なくされ、父親や親戚から懇願され、家業を継ぎました。

当時の家業は100名を超える社員が働き、グループ会社も持つ地方の印刷会社としてはそこそこ大きな会社でした。経営状態も極めて良好でした。
しかし実態は、ほぼ一社の大手出版社にぶら下がる完全下請け体質の会社でした。また、DTP化や社内のIT化も大幅に遅れていて、強い危機感を持ったことを今でも覚えています。

そんな中、経済不況や出版不況が訪れ、それに伴い得意先の経営体制も刷新され、関係もドライになり、度重なるコストダウンの要請で売上も大幅に落ち込み、急速に状況が変わっていく中で、最終的に経営者である父から廃業を言い渡されました。もちろん、私が頼りなかったというのも原因の一つでもあるでしょう。
祖父が創業し、父が承継した会社を守れなかった悔しさ、そして、会社の未来を変えようと、IT事業を立ち上げたものの形にできずに道半ばで終わらせる悔しさから、再起を誓って立ち上げたのが株式会社U-NEXUSです。



■ 道半ばで諦めることになったIT事業で一念発起

ー立ち上げメンバーは4名とのことですが、創業の中心になったのがおふたりですか。

<上野>
前職の印刷会社時代、私は父が初代から受け継いだ印刷事業を継承しつつも、当時から「印刷は今後大幅に縮小していく」といわれていたことへの危機感もあり、なんとか新規事業を起こそうと、横田を誘ってIT事業部門を立ち上げました。

<横田>
そこが上野さんとの出会いです。印刷会社内で新事業にチャレンジする部門として配属され、WEB制作やマーケティングに着手しました。

<上野>
前述の通り、会社が廃業することになり、一念発起して新しい会社を立ち上げようと決め、その時に真っ先にブレーンとして頭に浮かんだのが横田でした。
彼と一緒に仕事を続けたかったのも起業の大きな理由のひとつで、ふたりで個人面談をしたときに、事業を成功させることができなかったその悔しさから、涙したことは今でも忘れられません。


ー「U-NEXUS」の社名に込めた思いを教えてください。

<上野>
U-NEXUSの「 U 」は2つの意味を持ち、ユニーク、ユーザーを表し、「 NEXUS 」は結合することを意味します。
前職で苦労(廃業経験)を共にしたメンバー4人で創業しました。 単に人が集まった集合体ではなく、一人ひとりの「個性」「強み」「知識」「知恵」を最大限に引き出し、掛け合わせることで、新しい価値創造に繋がる結合体になっていきたい、そして「新しい価値の創造を通して、世の中の役に立つ」という決意が込められています。

 創業メンバー

創業メンバー4人(右上1名と下3名)

 U-NEXUS創業の地

U-NEXUS創業の地(長野県創業支援センター)

 創業期にマインドマップで描いたウェルカムボード

創業期にマインドマップで描いたウェルカムボード。
この時に書いた「FileMaker」と「Apple」のパートナーになる夢が実現。


ー創業当時の思いはどのようなものだったのでしょうか。

<上野>
当社はシステム開発系では完全に後発です。すでに沢山のシステム開発会社があるなかでの起業でしたので、同じことをしても仕方がないと思いました。
前職ではライバルと同じパイを巡って奪い合うことに疲弊していましたので、奪い合うのではなく、新しい価値を創り出していこうという思いが強かったです。

私自身は開発者ではないし、デザイナーでもありません。
しかし、昔からアイデアには自信があり、やりたいことは次から次へと湧き出てきます。
そのため、やりたいことには事欠きません(笑)
この自分らしさで勝負しようと思いました。
そんなある時、コンセプトデザイナーという肩書きをふと思いつき、これだ!と思いました。
名著「ストレングスファインダー(強み診断ツール)」でも「着想」が一番です。

<横田>
私たちは過去の同じ苦しみや失敗を分かち合った仲間ですので、同じ方向性をめざしていこうという思いはありましたし、なんとか現状を打破したいと燃えていました。ただ、現実はなかなか難しく、創業1年目の上半期は毎日会議ばかりで、今振り返ると精神的に追い込まれていった本当に苦しい時期でもありました。


それを変えたのは、今でこそ当たり前になっていますが、当時は先駆的だったiPadの業務アプリを作って顧客の業務に取り入れるという上野さんのアイデアです。
当時はiPadを業務で活用している会社があまりなく、そこにアイデアを乗せてかたちにしていくのが実際の事業としてのスタートでした。そこから加速していきました。

<上野>
そのアイデアの源泉は、もともと私自身がiPadを使っていたことと、Apple社の子会社であるFileMaker社(現Claris)が提供する「FileMaker」も前職の頃から長く使っていたことにあります。
幸運だったのは、起業した当初、ちょうどFileMaker社がiPadとiPhone向けのアプリに対応してしたことで、一気にコンシューマーからエンタープライズの世界への可能性が広がったことです。当時はまだビジネスの世界ではiPadの使い方を模索している段階でした。

この時、直感的に現場を巻き込んだIT化が促進できると思いました。
これまでのコンピュータというのは、ホワイトカラーの人たちの便利を追求するものでした。
しかし、iPadやiPhoneの登場によって、コンピュータやパソコンの操作ができない人たちにも広げることができると確信しました。
こうして皆でアイデアを出し合い、現場で使えるアプリのプロトタイプ(試作品)をたくさん作り、お客様に提案することで仕事につながっていきました。
この時流に乗ることが出来たことも大きかったです。
ツキがある会社だと思っています(笑)

 カンファレンス

創業2年目に「FileMar Rookie of the Year 2013」を受賞。
創業メンバーと当時お世話になっていた FileMaker 社佐々木マネージャー(当時:右から2人目)

 受賞

<FileMaker Japan Excellence Award>
2013年「Rookie of the Year 2013」
2014年「PR Driver of the Year 2014」
2016年「Leader in New Technology Adapter 2016」
2017年「Leader in New Customer Generation – PR 2017」


ー今では取引先社内でのIT人材育成から組織づくりまで手がけているとのことですが。

<上野>
そうですね。当社はだいたい3年サイクルで変化しています。
最初の3年間は私たちがお客様に代わってアプリ開発を代行していましたが、創業4年目に「魚を与えるよりも魚の釣り方を教えよ(授人以魚 不如授人以漁)」という老子の言葉に出会い、激しく感動しました。
「魚を与えれば一日食べさせることはできるが、釣り方を教えれば一生食べさせることができる」。その通り!
これがトレーニング事業の立ち上げの大きなきっかけとなりました。
こうした動きが結果的に、エンジニアの立ち位置を「業者」から教える立場=「先生」へと変えることになり、これは我が社にとってとても大きな経験となりました。
立ち位置、目線が変わったことで、7年目くらいからは徐々に当初の目的だった上流工程(企画やコンサルティング)への参画も徐々に展開し、ものづくりから始まり、人材づくりに進み、今では会社づくりやコトづくりのご支援をさせていただくまでにステージを引き上げることができました。



■ 大切なのは、常識に捉われずユーザー目線であること

ー企業として、これまで大切にしてきたことを教えてください。

<横田>
偉そうなことはいえませんが、数多くの失敗をしてきてもチャレンジはし続けてきました。失敗しないとお客様からどんなことが望まれているか、何を直さないといけないかが見えません。また、これまで夢中でやってきましたが、それが業界の常識をわかっていないということも相まって、先ほど上野さんが話していたように創業間もなく認定パートナーになるなど、普通の常識では諦めていたことにつながっていると感じています。

<上野>
後知恵ですが、シリコンバレーでは「Fail fast! Fail often!」(早く失敗しろ! たくさん失敗しろ!)という言葉がよく使われています。クラウド化やiPadのアプリ開発など、今まで業界で行われてこなかったいろいろなことに失敗を恐れずチャレンジし、かたちをつくってきた当社はそれができていたのではないでしょうか。そういう意味では、世の中に新しい価値を提供できたのかもしれません。そして、新しい価値を生み出すには失敗は付き物であるということも覚悟する必要があるでしょう。


ーそうした経緯から根付いてきた企業文化はありますか。

<横田>
上野さんはよく「顧客価値」という言葉を口にします。要は本質的なことですが、業界ではタブーなこと、普通はしないことは業界側の都合であり、お客様から見たら「こうやったほうがよいのではないか」というユーザー目線で取り組むことが大切だということです。もともと私たちはFileMaker社のユーザーだったため、ユーザー目線を業界に当てはめることを知らぬ間に意図しつつやってきているのではないでしょうか。


ーその点では業務アプリを開発できる人材を取引先で育成したらユーザー目線ではありますが、受託業務が減るのではないかとも感じました。

<上野>
たしかに当時は同業者からも「ノウハウを提供したら仕事が来なくなるのでは」といわれ、そうだなと思いましたし、実際に来なくなったクライアントもありますが、つまりは顧客本位で本質的な価値を提供できたということではないかと思っています。それで良いと考えています。

先日、NHKのクローズアップ現代で、「オープン・シェア革命」というタイトルの放送を見ました。
そこで、メジャーリーグで活躍するダルビッシュ投手が、YouTubeで自分の球種や投げ方を全て動画で公開している様子が紹介されていました。
その時に「自分が持っている技術を自分のものだけにしてしまうと、すごくもったいない。共有することに喜びを感じて欲しい。すべての球がすべての投手に投げられるようになるのが僕の夢。業界全体のレベルを引き上げていきたい」とおっしゃっていたことが印象的で共感しました。
まだまだ小さい人間ですが、全体を良くするという考え方が大事ではないかと思います。

 ポスター

2015年1月に全員でつくったポスター


ー同業他社と比べて強みに感じている部分はどういったことでしょうか。

<横田>
ユーザー目線の仕事の進め方や提案内容の考案はできている点ではないでしょうか。また、最近は公的な場での講演依頼が増え、講師の立場で話ができるため、自分たちから売り込むことなく相談に来てもらえることが一般的なシステム会社との差だと思います。さらにお客様のコンサルティングやパートナーになることをめざしているため、たとえ自社製品ではなくても必要に応じたものをお客様に提案できるのが他社との違いです。

 Apple銀座

Apple Store Ginzaのイベントにて。故スティーブジョブズと同じステージに。

<上野>
私たちは同業者から「システム会社がそんなことまでするんですか」と驚かれるほど業界の常識を打ち破ってきましたし、出発点が印刷会社だったため、全くのゼロからのスタートだったことにより、何もない状態からさまざまなものをつくり出すことができました。そのような意味では常識を知らなかったことが結果的に良かったのかもしれません。
横田をはじめとする人材も強みです。
また、有名企業の成功事例が多くあることや、トレーニング事業では「業者」から「先生」という立場に変わったことで、長野県内で影響力のある長野商工会議所、長野県テクノ財団、長野県中小企業振興センター、長野経済研究所、長野法人会などといった団体でのセミナー講師やアドバイザーなども務めており、横田も話していた通り、相談をしてもらえる流れをつくり出せていることも強みです。
加えて、システム会社ではあまり実施されていない自主開催のセミナーを企画から運営をすべてできるのも強みでしょう。

 デザイン思考

デザイン思考のワークショップの風景

 ハンズオンセミナー

FileMaker ハンズオンセミナーの風景


ー受け身体質という点では、二代目経営者のバックアップにも力を入れています。その思いを教えてください。

<上野>
一番は前職での原体験です。印刷会社の後継者として17年勤め、最終的に廃業で父の跡を継げなかったことから起業したものの、私個人のミッションとしては、後継・廃業・起業という経験を生かし、世の中の後継者のよき相談相手になって、ともに新しい未来をつくっていきたいと考えています。



■ これからの10年、さらにその先を見据えて

ー最後に今後の展望を教えてください。

<上野>
「未来を変えるアイデアがここから生まれる。」というキャッチコピーの通り、お客様と最高のコラボパートナー、共創パートナーになることです。今は何が起こるかわからない不確実な時代。ドラッガーの言葉を借りれば、未来は予測できないから自分たちでつくっていくしかありません。
そのための最高のコラボパートナーになり、このホームページも継続的にアップデートしていきます。そして、ホームページを通して新しい発見やアイデアが生まれるかたちをオンラインで構築していく予定です。

<横田>
私は事業の拡大や成功よりも、日本がIT後進国になってしまっている現在、講師を務めることによって人材の引き上げや中小企業のIT分野で相談できる相棒のようになることが自分としてのミッションだと感じています。そういうステージに上がることが今めざす姿です。また、DX(Digital Transformation)は企業の存続に絶対必須で、その支援が私の役割であり、上野さんは企業変革やCXに、私はDXに会社として力を入れていきます。

<上野>
通常、CXはカスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience/顧客体験)の略ですが、最近はコーポレート・トランスフォーメーション (Corporate Transformation)とされ、デジタルだけでなく企業そのものを変えていかないといけないといわれています。
私たちは自分たちの原体験を強みに、多くの失敗もチャレンジもしてきた経験を踏まえ、これからチャレンジする企業を支援する立場でありたいと思っています。



プロフィール:

上野敏良/株式会社U-NEXUS代表取締役
 企業変革・価値創造コンサルタント
 デザイン思考ファシリテーター

1971年、長野市生まれ。
中小企業の後継と起業の両方の経験を持つ。
後継時代は、完全下請け体質の印刷会社の3代目として17年間務めるも、経営難と先行き不透明の中、2代目である父親から廃業を言い渡され承継を断念。後継時代に、未来を変えようと立ち上げたIT事業が道半ばに終わり、その悔しさから一念発起、41歳にして独立・自立を決意。
業界経験なし、営業経験なし、収入の見込みなしでITベンチャーを創業。今年(2021年1月〜)で10周年を迎える。創業8ヶ月という異例の速さでApple子会社のFileMaker社(現Claris社)の開発パートナーとなり(最短記録)、1年でGoogleパートナー(長野県初)、1年5ヶ月で米Appleのコンサルティングパートナー(長野県初)となる。
現在は、スタンフォード式のデザイン思考の日本での先駆けであり、普及の立役者であるアイリーニ・マネジメント・スクール兼デザイン思考研究所のアドバイザーも務める。
主に中小企業の物売り・技術売りからサービス型・企画提案型企業への変革、実店舗型ビジネスの自律型組織づくりの支援を行っている。人間中心・顧客起点の価値創造や組織風土の変革を得意としている。自らの17年間による後継経験と、9年間の起業とコンサルティング経験を通して得られた実践的ノウハウを携え、中小企業の未来を見据えた支援を行っている。

横田志幸/株式会社U-NEXUS 専務取締役
 ITコンサルタント
 DXアドバイザースペシャリスト

長野県軽井沢町生まれ。
東芝系流通情報システムメーカーのシステムサポートエンジニアとしてシステム保守管理およびシステム導入支援を多数経験後、上野の前職でもある中堅印刷会社の情報システム部門で新規WEB・アプリ事業部門立ち上げに従事。WEBシステム構築に携わり、サイト構築、WEBディレクション、アクセス解析・WEB広告・WEBマーケティングへの取り組みを本格化。またGoogleWorkspace(旧GSuite)をはじめとした各種クラウドサービスの導入支援、セミナー、ユーザートレーニングを多数開催。
2012年1月、U-NEXUSの立ち上げに参画。FileMaker認定デベロッパー資格を取得し、FileMaker開発事業立ち上げに従事。事業プラン・戦略策定、ユーザートレーニング等を行う。
現在はApple Japanのビジネスコンサルタントメンバーとして、ソリューション、テクノロジー、サービスのコンサルタント活動を展開し、各種研修・セミナーの講師を多数務める。
さまざまなIT相談(Apple製品の便利な使い方からPCのレスキュー、サーバー・ネットワーク構築および管理、WEBの企画・ディレクション、FileMakerの開発のディレクションとITコンサルティング、GoogleWorkspaceの有効活用等)を得意とする。